一般的に普段から筋トレをしていない人からすれば、筋肉痛って厄介ですよね。
でもこの記事を見てくれているトレーニーの皆さんは、激しい筋トレで筋肉を追い込み翌日に筋肉痛がくる事を祈りながら床についているのではないでしょうか。
でも筋肉痛と筋肉がつく事って実は無関係って知ってましたか?
という事で今回のテーマは「筋肉痛」です。この記事を読んで筋肉痛の真実と筋肉痛との付き合い方を理解しトレーニングの質を高めていきましょう。
筋肉痛ってそもそもなんなの?
筋肉痛とは、運動後数時間から数日後に生じる筋肉の痛みのことです。慣れない運動を行ったとき、普段使わない筋肉を使いすぎた場合などに顕著に現れます。
筋トレをしている方であれば馴染み深い痛みですが、久しぶり身体を動かしたりすることで何日間も筋肉痛に悩まされるといった経験は誰しも当てはまるのではないでしょうか。
また、あまり知られていませんが、筋肉痛は2つの種類に大別されています。
遅発性筋肉痛
名前はご存じない方がほとんどだと思いますが、一般的に筋肉痛といわれるとこちらの事を指している場合が多いです。運動直後ではなく、一定の時間が経過してから症状が生じるため、「遅発性筋肉痛」とも呼ばれています。
急性筋肉痛
一方、運動中から運動直後に生じる筋肉の痛みは「急性筋肉痛」と呼びます。筋肉を疲労させたときの焼け付くような感覚。「バーン」と呼ばれる事もあります。
今回は一般的に言われる筋肉痛の遅発性筋肉痛に焦点を当てていきます。
筋肉痛の原因って何?
筋肉痛のメカニズムは、医学的にははっきりと解明されていません。
筋肉痛は、当初疲労により蓄積される乳酸が原因とする説が有力でした。しかし、血液中の乳酸の量は運動後すぐに減少する事から、筋肉痛を引き起こす原因にはならない可能性がでてきました。[1]
そこで、先ほど登場した「筋繊維」の損傷を回復する際の炎症が原因なのではないか、という説がでてきたのです。
炎症によりブラジキニン、ヒスタミン、アセチルコリンなどの痛み物質とされるものが発生し、筋繊維を包む筋膜にその痛み物質が刺激を与えることで筋肉痛になるとする説が現段階では有力とされています。1)
なぜトレーニーは筋肉痛を追い求めるのか?
こちら運動をした事がある人であれば一度は耳にした事があるのではないでしょうか。その名も「超回復理論」。
強い負荷をかけることで傷ついた筋肉細胞が休息によって回復し、さらに負荷を受ける前よりも筋力が強くなるとする理論です。
超回復は負荷を与えてから2~4日ほどの期間で行われるといわれ、その期間に回復を待ち回復してからまた負荷を与える、ということを繰り返すことで筋力を合理的に増強できると考えられています。
そして筋肉痛はその筋肉細胞が傷ついた目安として利用されることが多く、筋肉痛=筋肉を十分に追い込むことができ、筋肉痛が回復する事で以前よりも筋肉を増強する事ができるとトレーニーは考え、日々筋肉痛を求めながら筋トレに励んでいるのです。
どうすれば筋肉痛になるの?
筋肉には、筋肉が縮みながら力を発揮する「短縮性筋収縮(コンセントリック・コントラクション)」と、筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する「伸張性筋収縮(エキセントリック・コントラクション)」という2つの局面があります。
例えば、重いものを持つとき、肘を曲げて重いものを持ち上げるのは腕の前側の筋肉である上腕二頭筋が縮みながら力を発揮しています。これは短縮性筋収縮です。
逆に下ろすときは、上腕二頭筋の力を緩めながら下ろしていくことになります。この際、上腕二頭筋は伸ばされながらも力を入れているため、伸張性筋収縮をしていることになります。こちらは俗にいうネガティブレップと呼ばれる運動ですね。
このように、カラダを動かしている場合はどちらかの局面にあるわけですが、短縮性筋収縮よりも伸張性筋収縮の方が筋線維を傷つけやすく、筋肉痛が起きやすいとされています。
極端な話「ネガティブレップ」にこだわれば特にひどい筋肉痛を起こすことができます。
例えばベンチプレスでは、自分で挙げられるギリギリまで行ったあと、トレーニングパートナーにバーベルを挙げるのを補助してもらい、自分はできるだけバーベルをコントロールしてゆっくり下ろすようにします。これを2〜3レップも繰り返せばまともに力を出せなくなります。バーベルを挙げるのはほぼパートナーに頼ることになり、バーベルを下ろすスピードもコントロールできなくなります。するとどうでしょう。かなりの確立であなたは筋肉痛になることでしょう。
衝撃!筋肉痛と筋肥大は関係がない!
これはこれまで筋肉痛を目的にしてきたトレーニーにとってはかなり衝撃的かもしれません。こちら2)の論文によると筋トレ開始1週目3週目10週目の筋肉の肥大率を比較しました。
論文の内容を簡単に要約すると、トレーニングを始めたばかりの頃は、筋肉痛が生じる事で炎症がおこり腫れて大きくはなるけど、炎症を除いたら筋肥大はしていなかったそうです。またトレーニングを継続していくと、身体が適応していく事で、筋肉のダメージ、つまり筋肉痛が減っていきます。そしてその段階に入ってから、筋肉は増えていくという結果が報告されています。
つまり筋肉痛は筋肉が大きくなるの事とは無関係という事が証明されているのです。
筋トレに精通しているものであれば「NO PAIN NO GAIN(痛みなくして、得るものはない)」という言葉を聴いたことがあるのではないでしょうか。
筋トレにおいてこの言葉は筋トレで筋肉を損傷させる事が超回復を引き起こすという事を意味しています。筆者自身も好きな言葉でした。
ですが残念ながらこの言葉は間違いという事になります。むしろ、過度なトレーニングはオーバートレーニングとなり筋肉の成長を妨げる要因となりえるのです。
筋肉痛が起こる事で生じるデメリット
筋肉痛が出ているときには、その筋肉に大きな負荷をかけない方がよいでしょう。現状としては筋肉痛は筋肉を修復してる最中という説があるためです。
もちろん「自分は筋肉痛でもトレーニングをするんだ!」という強い意思のある方がいる場合とめる事はできません。
しかし筋肉痛が出ていると「痛みで全力を出せない」「痛みで集中できない」「痛みで関節可動域が狭くなる」などなど、デメリットがあり、効果的にトレーニングを行えなくなってしまいます。
筋肉痛が出ているときは休息するか、軽い運動に留めて筋肉の修復を優先させた方が効率的といえるでしょう。
じゃあ結局どのようにトレーニングしていけばいいの
前述したとおり、筋肉痛はトレーニング強度をさげてしまいます。ですが筋肉痛にならないようにトレーニング強度を落としたのでは本末転倒になり、筋肉の成長は見込めなくなります。
また、これまで筋肉痛を悪者のように説明してきましたが、筋トレをする以上筋肉痛を避けて通る事は無理です。
一番筆者が伝えたい事は筋肉痛に振り回されずにトレーニングを行うという事です。
ですが筋肉痛との付き合い方、筋トレをする以上成長しているかの指標を持ち確認することが大切です。それらについてもご紹介させていただきます。
筋肉痛との付き合い方
筋肉痛との付き合い方:トレーニング編(分割法)
こちらは多くの方がトレーニングに組み込まれている事でしょう。念のため説明すると1日に体のうちの一部だけをトレーニングする、そして何回かに分けて全身をトレーニングするという方法です。
筆者の場合は全身を下記のように4分割に分けてトレーニングしています。
①胸、三頭
②背中、二頭
③肩、腕
④脚、腹
全身バランスよく鍛えることが出来るので、初心者の方で慣れてきたらオススメです。いくつに分割するかは筋疲労などによって変わるため、人それぞれになりますが、このように分ける事で、筋肉痛の部位を回復させつつ全身を満遍なく発達させていく事ができるのです。まだトレーニングに組み込んでいない方であれば是非取り入れていただきたいと思います。
筋肉痛との付き合い方:筋肉痛のケア編
ポワティエ大学のDupuyらは、2017年までに報告された99の研究報告をもとに、トレーニング後のアフターケアによる筋肉痛の痛みと疲労感への効果について解析を行いました。
アフターケアによる効果は、マッサージ、寒冷療法、ストレッチ、軽い運動に加え、加圧ウェア、冷水浴、交代浴、電気刺激の8つの方法が試されました。
その結果もっとも効果的であったのがマッサージであり、トレーニング後6時間以内、24時間、48時間での痛みの軽減効果が認められました。次いで軽い運動、加圧ウェア、寒冷療法、交代浴、冷水浴による効果が認められましたが、ストレッチや電気刺激による効果は見られませんでした。
疲労感においてもマッサージがもっとも改善効果があり加圧ウェア、冷水浴の順でによる改善効果が見られました。その他の寒冷療法、ストレッチ、軽い運動、交代浴、電気刺激による効果は認められませんでした。
ストレッチが筋肉痛はおろか筋疲労にも効果がないというのは驚きかもしれません。筋トレにおけるストレッチに関しては過去に記事がありますので、こちらを参照ください。
ではもっとも効果的であったマッサージの方法について説明していきます。
筋肉痛になっている筋線維を早く修復するためにはその部位の血流を促すことが重要です。
軽いマッサージを行うとその部位の血流が促されますので、筋肉痛を早く治すことにつながりますが、凝った筋肉を芯までほぐすときのような強めのマッサージを行うと生傷をこするように傷めている筋線維をさらに傷めつけるようになってしまいます。
最悪の場合筋肉の炎症が強くなってしまい、筋肉痛の治りを遅くしてしまうこともあります。
では、筋肉を傷めず血流を促進するようなマッサージとはどのようなマッサージかというと、少し筋肉に圧がかかる程度に手のひらや指の腹でさする「強擦法(きょうさつほう)」です。
筋肉痛になっている部位に強い痛みがなく、適度な刺激を感じる程度であることを意識して行いましょう。
筋肉痛との付き合い方:栄養編
筋肥大、筋力アップ、筋肉痛の回復においてたんぱく質の重要性はすでに言われている事ですが、おさらい程度に…。
運動をしている方であれば体重×2gのたんぱく質が1日に必要になります。体重が60kgであれば120gものたんぱく質が必要になります。食事だけでこの量を摂取するのは大変ですので、プロテインなどを取り入れて効率的に摂取していく事をお勧めします。
また筋肉痛は筋繊維が損傷して炎症がおきていることが主な原因とされています。この炎症を抑えるために、「抗酸化物質」を多く含む下記のような食品を積極的に摂取しましょう。
・ビタミンA (にんじん、トマト、レバーなど)
・ビタミンC(キウイ、パプリカなど)
・ビタミンE(アーモンド、うなぎなど)
・ポリフェノール(ココア、野菜、果物など)
・アスタキサンチン(紅さけ、海老など)
筋肉がちゃんと成長しているかの確認方法はこちらの記事を参考にしてください。
まとめ【筋肉痛で筋肉増強は無関係!筋肉痛について徹底解明!付き合い方もレクチャー!】
①筋肉痛のメカニズムは、医学的にははっきりと解明されておらず 「筋繊維」の損傷を回復する際の炎症が原因とする説が有力。
②筋肉痛は筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する「伸張性筋収縮(エキセントリック・コントラクション)」を行う事で生じやすい。
③筋肉痛は筋肉が大きくなるの事とは無関係という事が研究により明らかになっている。それどころか筋肉痛が出ていると痛みなどでトレーニングの質をさげてしまう。筋肉痛が出ているときは休息するか、軽い運動に留めて筋肉の修復を優先させた方が効率的。
④筋肉痛が生じているときは筋肉痛が起きている筋肉を休ませ、他の部位をトレーニングする分割法を取り入れることで、全身を満遍なく鍛える事ができる。
⑤筋肉痛の改善に効果的なのはマッサージであり、次いで軽い運動、加圧ウェア、寒冷療法、交代浴、冷水浴であり、ストレッチや電気刺激による効果ない。
⑥筋肉痛の回復においてたんぱく質はもちろんだが、抗酸化物質も摂取も重要。
以上になります。筋トレをする上で筋肉痛にこだわる必要はありません。ですが、筋トレをする以上筋肉痛との付き合いも続く事は事実です。この記事をよんでうまく筋肉痛と付き合っていきましょう。
1)八田秀雄(著)、乳酸と運動生理・生化学―エネルギー代謝の仕組み―、市村出版より)
2)Resistance training-induced changes in integrated myofibrillar protein synthesis are related to hypertrophy only after attenuation of muscle damage.
本記事のライター
「筋トレナースマン」
看護師歴6年目。
筋トレ歴はホームトレーニー時代を含めると6年目。
医療、解剖学的観点から筋トレにアプローチしていく。
ボディメイクを世間に浸透させることが目標。