ランニングに慣れてくると、ジョギングだけではなく、ペース走やインターバル、レペティションなど、練習に様々なバリエーションが生まれてくると思います。
そこで皆さんは、これらの練習のペースってどうやって決めていますか?
おそらく、多くの人がペースの設定に悩んでいると思います。
そこで便利なのが、「ダニエルズ式ランニング計算ツール」です。
これは、ジャック・ダニエルズ氏という方が考案されたツールです。
ダニエルズ氏は、指導者としても運動生理学者としても世界的に有名な方で、数々のオリンピックメダリストを輩出されています。
以下のURLからアクセスできます。
http://www.runsmartproject.com/calculator/
使い方は、とても簡単です。
- 一番上の「Select Event Distance」の部分を押し、自分が走ったことのある距離を選ぶか、その横の空欄に直接距離を入力します。(距離の単位に注意)
- その下の「Time」の欄に、選んだ距離もしくは入力した距離の自己ベストを入力します。
- 最後に、水色の 「Calculate」ボタンを押せば完了です。(Paceの欄は、記入しなくても良い)
下にレースペースやトレーニングペースが表示されます。
今回の記事は、このツールに基づいて、
・ジョギングに最適なEペースについて
・フルマラソンに最適なMペースについて
・ペース走に最適なTペースについて
・インターバルに最適なIペースについて
・レペティションに最適なRペースについて
の順で解説します。
参考にしてみてください。
<注釈>
この記事では、各ペースの運動強度を最大心拍数の○○%という表記で表しています。
見慣れない人もいるかと思いますが、考え方はシンプルです。
まず、最大心拍数とは、その名の通り、その人の最大の心拍数のことです。
だいたい、220-(年齢)という式で求められます。
例えば、最大心拍数が200の人がいたとします。この200という数字が100%の基準となります。
では、この人がジョギング時の心拍数が100だったとします。100は200の半分ですので、このときの運動強度は、最大心拍数の50%となるという具合です。
ジョギングに最適なペース:Eペースについて
Eペースは、ジョギングに最適なペースで、Eは軽いという意味のEasyの略です。
強度は、最大心拍数の65~78%程度と無理のない範囲となっています。
初心者も気軽に取り組めるジョギングですが、一流選手であれ、練習のほとんどをジョギングが占めます。
マラソン男子世界記録保持者であるエリウド・キプチョゲ選手も、週2回のスピード練習以外は、全てジョギングメインという練習メニューを組まれています。
初心者も上級者も取り組むことから、ジョギングはランニングの基本中の基本であり、レベルアップにも欠かせない存在なのです。
そんなジョギングのペースは、Eペースで行うと良いです。
Eペースのメリット
Eペースでのランニングのメリットは、以下の通りです。
- 怪我に対する耐性を作ることができる
- 心筋を発達させるのに効果的である
- 毛細血管を増やすことができる
ジョギングに最適なEペースのメリット①怪我に対する耐性を作ることができる
練習のほとんどをジョギングにすることで、怪我に対する耐性を作ることができます。
毎日、ペース走やインターバルなどのハードなトレーニングを行なっていては、当然疲労が溜まり、怪我に繋がります。
それに対し、ジョギングは負荷がそれほどなく、マイルドな疲労で翌日の練習にも、支障はほとんどありません。
怪我を防ぎつつレベルアップさせるためにジョギングは、絶好のトレーニングだということです。
ジョギングに最適なEペースのメリット②心筋を発達させるのに効果的である
心臓の収縮能力が最大に達するのは、最大心拍数の約60%の運動のときです。
この運動強度は、Eペースのランニングに相当します。
遅いペースのジョギングで心臓の収縮能力が最大になるのは、意外ですよね。
走るペースを上げても、心臓の収縮能力は変わらないのです。
その代わり、走るペースが上がると、心臓が収縮する回数が増えます。
しかし、心臓の収縮能力は変わらないので、一回の拍動で送られる血液の量自体は変わりません。
つまり、楽なペースでも、心筋を効果的に鍛えることは、十分可能ということです。
ジョギングに最適なEペースのメリット③毛細血管を増やすことができる
ランニングを行うには効率よく体に酸素を運搬する必要があるため、毛細血管という非常に細い血管が増えます。
毛細血管が増えれば酸素が効率よく体に行き渡るため、持久力アップに繫がり、ランニングに適した身体が作られていきます。
Eペースのランニング時間は?
Eペースでのランニングの時間については、30分以上が目安です。
初心者であれば、これより短い時間からスタートしてもらっても構いません。
徐々に時間を増やしていきましょう。
時々、いつもより長い時間行う、Eペースでのランニングを取り入れると良いです。
いつも同じトレーニングをしていると、そのトレーニングに慣れてしまいそれ以上の効果はあまり期待できませんが、時々いつも以上のトレーニングを行うことによって、心肺機能や筋肉に程よい刺激がかけられ走力アップに繋がるのでお勧めです。
フルマラソンに最適なペース:Mペースについて
フルマラソンをどのくらいのペースで走ったら、良いタイムで完走できるのかと悩むランナーは多いと思いますが、そんな時はMペース(MはMarathonの略)が役に立ちます。
Mペースの強度は最大心拍数の75~84%と、Eペースよりも少しきつくなります。
フルマラソンをなるべく速いタイムで、ペースを落とさずに走り切りたいというランナーには、非常に有効な指標となります。
トレーニングにもMペースのランニングを取り入れることで、レースの模擬体験やメンタル強化ができます。
しかし、トレーニングでは本番と同様な走りはできないと思いますので、フルマラソンの半分の距離であるハーフマラソンで行うと良いでしょう。
トレーニングの際にMペースで楽に走ることができれば、レースに向けて大きな自信をつけることができます。
また、Mペースを計算する際には、なるべく距離の長いレースでの自己ベストを入力してください。
あまり短い距離だと、Mペースがかなり速くなってしまうので注意です。
フルマラソンに出場する前は、10kmやハーフマラソンなどの段階を踏むのが一般的だと思うので、なるべくこういった距離の長いレースの自己ベストで計算するようにしましょう。
ペース走に最適なペース:Tペースについて
Tペースは、ペース走に最適なペース(Tは閾値という意味のThreshold の略)です。
ペース走は、乳酸の閾値(溜まり過ぎると疲労の原因となる乳酸が急激に溜まり始めるポイントのこと)より少し下のペースで走るのが一般的で効果がありますが、Tペースはまさにこのペースに設定されています。
強度は、最大心拍数の88~92%と、Mペースよりもきつくなります。
時間にすると、練習であれば20~30分は持つ、調整をしっかり行ったレースであれば60分間維持できるという感じです。
Tペースのランニングのメリットは、血中の乳酸を除去し、十分処理できる濃度まで抑える能力を高められることです。
乳酸は、糖がエネルギー源として利用されることで発生する物質で、溜まり過ぎると疲労の原因となってしまいます。
しかし、乳酸は単なる疲労物質というわけではなく、時間が経つと再びエネルギー物質に戻るという性質も兼ね備えています。
よって、いかに乳酸の溜まり過ぎを防げるかが自己ベスト更新の鍵になってくるのです。
今の話が分かりにくい人は、Tペースのランニングは簡単に持久力を高めると思って頂いて構いません。
練習の時間についてですが、20~30分このTペースでのペース走を行いましょう。
また、Tペースで行うクルーズインターバルというトレーニングも有効です。インターバルについては、次の見出しで説明しますが、疾走のペースをTペースにします。
Tペースでインターバルを行うことにより、ペース走よりも1本1本の距離は短くなりますが、本数をこなせば最終的に、ペース走よりも長い時間Tペースでのランニングを行うことができるのです。
ペース走が難易度が高いというランナーには、オススメのトレーニング方法となります。
ペース走にしてもクルーズインターバルにしても負荷が高い練習ですので、週1回を目安に行いましょう。
インターバルに最適なペース:Iペースについて
インターバルトレーニングとは、疾走とゆったりとしたジョギングを交互に繰り返すトレーニングのことです。
インターバルの疾走に最適なペースが、Iペース(IはIntervalの略)です。
強度は、最大心拍数の97.5~100%と、かなりきつくなります。
インターバルのペースについてはIペースで行えば良いのですが、加えてインターバルの最適な距離や時間について解説します。
インターバルに最適な距離と時間について
皆さんは、インターバルの疾走の距離や時間をどれくらいに設定していますか?
おそらく多くの人が200~1000mの間で行っていると思います。
しかし、ダニエルズ氏が推奨するインターバルの疾走時間は、3~5分間です。
距離に換算すると、だいたい1000~1600mとなります。
少し長いなあと思った人も多いのではないでしょうか?
これには、きちんとした根拠があります。
インターバルの最大のメリットは、最大酸素摂取量の向上です。
最大酸素摂取量とは、一定時間に酸素をどれだけ体に取り込めるかという指標のことです。
この値が高ければ、酸素をよりたくさん体に取り込むことができ、効率的なランニングに繫がります。
一流ランナーほど、この指標が高い傾向にあります。
安静時からランニングをスタートして最大酸素摂取量に達するまで、90~120秒はかかります。
つまり、これより少ない時間の疾走では、最大酸素摂取量に届かないまま疾走が終わってしまうことになり、効果が薄れてしまいます。
また、5分以上疾走してしまうと、負荷が高すぎてしまい、本数をこなすことができません。
これらの理由から、疾走時間を3~5分に設定するのです。
しかし、疾走時間をこれより短くしても、最大酸素摂取量に到達することは可能です。
あいだのゆったりとしたジョギングの時間を短くするのです。
先程、安静時からであれば、最大酸素摂取量に到達するまで90~120秒かかるとお伝えしました。
裏を返せば、安静時ではない、体がまだ回復しきれていない状態であれば、それより短い時間で最大酸素摂取量に達することができます。
理想は、3~5分間の疾走に設定するのが良いですが、まだそこまで体力が持たないという人は、あいだのゆったりとしたジョギングを短く(疾走距離より短く)して、200mや400mのインターバルを行ってみてください。
インターバルの本数は、3~5分間の疾走であれば、3~6本が目安です。
インターバルも、負担が非常に大きいトレーニングですので、週1回を目安に行ってください。
レペティションに最適なペース:Rペースについて
レペティショントレーニングとは、ほぼ全力に近いランニングを、長めの休息を挟みながら行うトレーニングのことです。
このレペティションに最適なペースが、Rペース(RはRepetitionの略)です。
強度は、最大心拍数の100%に到達するというかなり高負荷です。
しかし、休息が少し長い分、1本ごとに体をしっかり回復させることができます。
ここで、レペティションなどの適切な距離や時間についても解説します。
レペティションの疾走時間の上限は2分です。
レペティションの最大の目的は、酸素をあまり使わない無酸素性の機能を高めることです。
しかし、走る時間が長くなってしまうと走るペースが遅くなり、酸素を取り込みながら行う有酸素系の運動になってしまいます。
2分といえば、エリートランナーでも800mが限界だと思います。
市民ランナーであれば、200mや400m、600mがやりやすいでしょう。
本数は4~8本が目安です。
レペティションは、本数を多くしたからといって効果のあるものでなく、1本1本を大事にすることが大切な練習です。
本数を多くして、後半バテるようであれば、本数を減らして最後までペースが落ちないようにしましょう。
休息の時間については、疾走の時間の2~3倍に設定します。
しっかりと体を回復させ、後半フォームが崩れてしまわないようにしましょう。
レペティションもペース走やインターバルと同様、負荷が高いトレーニングですので、週1回を目安に行いましょう。
各トレーニングに最適なペースを理解して更なる走力アップを
最後に、この記事のまとめをします。
①各トレーニングに最適なペースを知るには、「ダニエルズ式ランニング計算ツール」がおすすめ
②ジョギングは、Eペースで行うのが良く、楽に心筋を効果的に鍛えることができる
③フルマラソンのペースは、Mペースを基準にすると後半バテにくく、自己ベストも狙える
④ペース走のペースは、Tペースで行い、乳酸除去能力を高める
⑤インターバルのペースは、Iペースで行い、最大酸素摂取量を高める。疾走の時間にも注意することで、更なる効果が期待できる。
⑥レペティションのペースは、Rペースで行い、無酸素性の機能を高める。
トレーニングのペースに悩んでいた人は、この記事を読んで解決したでしょうか?
最適なペースでトレーニングを行えば、最大の効果が期待でき、自己ベスト更新につながります。
ぜひ、「ダニエルズ式ランニング計算ツール」を利用してトレーニングを行い、その効果を実感してみてください。
この記事を読み、自己ベストを更新する人が続出すれば、幸いです。